今回も前回に続き、2023年4月に施行された民法の改正点について、「共有制度の見直し」がテーマです。

見直しに至った背景ですが、旧民法では相続登記が義務化されていなかったため、相続等をきっかけとして所有者不明となる土地が多数存在する結果となりました。ただ、過去の所有者の相続人を戸籍資料から辿っていけば、所有者不明土地について現在の所有者・共有者を特定できる場合があるものの、多くの所有者不明土地は、相続人が多数であったり、相続人の一部の所在が不明であったりして、所有者(共有者)の特定が困難又は不可能となっている状態です。そのため、所有者不明土地の管理・処分に大きな支障が生じています。

そこで、所在等が不明な共有者がいる場合でも共有地を円滑かつ適正に利用できるようにするため、共有制度の見直しが必要となり、今回の改正では、「共有物の変更・管理に関する規律の見直し」と、「共有関係を解消しやすくする仕組みの創設」が行われました。

1・共有物の変更・管理に関する規律の見直しについて

旧民法の規定では、共有物に軽微な変更を加える場合であっても、共有者全員の同意を得なければならないなど、円滑な利用・管理が阻害されていました。そこで、今回の改正では、共有物に変更を加える行為であっても、軽微な変更については、持分の価格の過半数で決定できることが定められました。

・軽微な変更以外…共有者全員の同意

・軽微な変更、管理行為…持分の過半数

・保存行為…共有者単独

賃借権等の設定については、共有者全員の同意が必要な「長期間の賃貸借」の判断基準が明確でなかったことから、実務上、慎重を期して全員同意を得ることが多く、円滑な土地利用を阻害していました。そこで、今回の改正では、持分の過半数で決定することができる、短期の賃借権等の範囲を明確にしました。持分の過半数で決定できる短期の賃借権等の範囲は以下のとおりです。

(1) 樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等 〔10年〕

(2) (1)に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 〔5年〕

(3) 建物の賃借権等 〔3年〕

(4) 動産の賃借権等 〔6か月〕

2・賛否を明らかにしない共有者、所在等不明共有者がいる場合の、管理に関するルールの合理化

旧民法下では、共有物の管理に関心を持たず、連絡をとっても明確な返答をしない共有者がいる場合には、共有物の管理が困難となる問題がありました。そこで、今回の改正では、賛否を明らかにしない共有者がいる場合に、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定できる制度が創設されました。なお、この制度は、変更行為や賛否を明らかにしない共有者が共有持分を失うことになる行為(抵当権の設定等)には、利用できません。

また旧民法下では、所在等不明共有者がいる場合には、その所在等不明共有者の同意を得ることができないため、共有物に変更を加えることができず、また、所在等不明共有者以外の共有者の持分が過半数に及ばないケースなどでは、管理についての決定もできませんでした。そこで、今回の改正により、所在等不明共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、「所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えること」と、「所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定すること」ができる制度が創設されました。

3・共有物の管理者制度の創設

旧民法では、共有物の管理者に関する明文規定がなく、選任の要件や権限の内容が明らかではありませんでした。そこで、今回の改正では、共有物の管理者制度が創設されました。共有物の管理者の選任・解任は、共有物の管理のルールに従い、共有者の持分の価格の過半数で決定されます。また、共有者以外の者を管理者とすることも可能です。

管理者は、個々の行為について共有者の過半数の同意を得ることなく管理に関する行為(軽微変更を含む)をすることができますが、軽微でない変更を加える場合には、共有者全員の同意を得なければなりません。なお、所在等不明共有者がいる場合には、管理者の申立てにより裁判所の決定を得た上で、所在等不明共有者以外の共有者の同意を得て、変更を加えることができます。また、共有者が共有物の管理に関する事項を決定した場合には、これに従って職務を行わなければなりません。決定に違反して行った管理者の行為は、共有者に対しては効力がありませんが、決定に反することを知らない第三者に対しては無効を対抗できません。

4・共有物を使用する共有者がいる場合の規律の整備

旧民法では、共有物を使用する共有者がいる場合に、その共有者の同意がなくても、持分の価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定できるかが明確でなく、無断で共有物を使用している共有者がいる場合には、他の共有者が共有物を使用することは事実上困難でした。そこで、今回の改正では、共有物を使用する共有者がいても、持分の過半数で管理に関する事項を決定できることが明記されました。これにより、共有物を使用する共有者がいる場合でも、持分の過半数の同意でそれ以外の共有者に使用させることを決定することも可能となります。ただし、管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その共有者の承諾を得なければなりません。

また、旧民法では、共有物を使用する者が他の共有者に対してどのような義務を負うかについての規定がなかったため、今回の改正では共有物を使用する共有者は、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を支払う義務を負うとする規定が設けられました。さらに、共有者は善良な管理者の注意をもって共有物を使用する義務を負うことも明記されました。その結果、共有物を使用する共有者が自己の責めに帰すべき事由によって共有物を失ったり壊したりした場合、他の共有者に対し、善管注意義務違反等を理由とした損害賠償義務を負います。

5.共有関係を解消しやすくする仕組みの創設

旧民法では、裁判による共有物分割の方法として現物分割と競売分割(換価分割)が定められており、代償分割(賠償分割)は判例により許容されているにすぎませんでした。

*現物分割…共有物の現物を分割する方法

*競売分割(換価分割)…共有物を競売にかけ、売却代金を分割する方法

*代償分割(賠償分割)…共有物をある共有者単独(又は数人)の所有とし、他の共有者に対して持分の価格を金銭で支払わせて分割する方法

そこで、新民法では、裁判による共有物分割の方法として、代償分割(賠償分割)が可能であることを明記するとともに、(1)現物分割・代償分割(賠償分割)のいずれもできない場合、又は(2)分割によって共有物の価格を著しく減少させるおそれがある場合(現物分割によって共有物の価格を著しく減少させるおそれがあり、代償分割(賠償分割)もできない場合)に、競売分割(換価分割)を行うこととし、分割の検討順序を明確にしました。また、裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができることも明文化されました。(258条4項)

6・所在等不明共有者の不動産の共有持分を取得・処分する制度の創設

旧民法では、共有者の中に所在等不明共有者がいる場合、共有物分割訴訟等の裁判手続を行えない場合もあり、共有を解消することが非常に困難でした。そこで今回の改正では、共有者が他の共有者を知ることができないとき・その所在を知ることができないときは、裁判所に申し立てた共有者に、所在等不明共有者の持分を取得させられる裁判をすることができる制度が創設されました。

裁判所に申立た共有者が2人以上の場合は、各共有者に所在不明等共有者の持ち分を、共有者の持ち分に応じて分割して取得させることとなります。また、共有者の中に所在等不明共有者がいる場合、他の共有者が共有物件の売却等の処分を希望するときには、裁判所が申立共有者に所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与できる制度も創設されました。この制度による譲渡権限は、所在等不明共有者以外の共有者全員が持分の全部を譲渡することを条件とするものであり、不動産全体を特定の第三者に譲渡するケースでのみ行使可能です。注意点ですが、上記の制度は共有の形態が「相続開始後、遺産分割前までの共有状態」の場合には、相続開始から10年を経過しなければ利用できません。